2007-01-01から1年間の記事一覧

美奈、夜の幕間に

夜が一層更け、都心のビルのネオンが際どく輝く中セント・ホスピタリアの廊下が不意に賑わう。 『…また外出?無断で?しょうがない子ね。あの子は本当に‥』 だがテラスで一人煙草を吹かす担当医の松室の表情はどこか不思議と平静とした笑みさえ浮かべるよう…

満月の犲狼・1

一人、館の奥の小部屋のTVを凝視する晋子の表情は何時にも増して険しい。 部屋のカーテンを包む漆黒が一層映えて見える。外はまだ夜が包んでいた。TVの下の床に無造作に置かれた今朝の朝刊にも昨夜の出来事の概要が記載されていた。さすがに一面記事を飾るも…

青華学園編・これまでのあらすじ

心に傷を持った少女とそれを守ろうとした一人の少女の結末は最悪の展開となりその幕を閉じた。山室イズミの死からほどなくして青華学園に新しい講師が現任・北織美香の代わりとして就任した。 名を伊達一真と呼ぶその男は高い知性と独特の審美眼よりクラス一…

大殺界

聖堂を陰欝な空気が支配する。 観客の騒めきはとどまる所を知らず混乱の度合いをさらに深めていった。 『どうして‥ドアが開かない!』 『電話も通じない‥ そんな、それじゃ私たちはこの中に閉じ込められてしまったっていうの!?』 『皆さん!落ち着いてくだ…

とこしえの記憶・3

由香里は支えが無くなった一本の花のように力を失い、気を失っていた。 南はそっと由香里の額に片手を添えるように触れた。すると南の精神力に共鳴するように鼓動が脈をうつように繋がり律動する。 由香里の精神とバイパスをつないでいくように、由香里の心…

とこしえの記憶・2

『由香里っ…!』 漆黒の衣に身を包んだ南を止めたのは意識を不意に取り戻した由香里であった。『殺さないで… その人を‥先生を、殺さないで… お願いだから…』 由香里の哀願に南の瞳が収斂する。 迷い…錯乱… だが決してそれだけでは語れない感情が南を襲う。 …

とこしえの記憶・1

カツ、カツと冷たいヒールの音が校舎の廊下を静かに響く中、 伊達は一人、職員室の窓から外の光景を眺めていた。 『由香里‥能力者に、あいつに対抗するには、おまえの力が‥』 伊達は眉を潜めて背広の懐にしまってあった煙草を吹かす。 一息煙を吹いた視線の…

血染めの舞踏衣(ドレス)

『あなた‥その力… 貴方も、能力者なの…?』南が怪訝な表情で美奈を見つめる。 美奈は黙って添い寄せた泰星への手を離し、軽く膝に付いた返り血を拭ってゆっくりと南のほうに歩み寄る。 『…まるで私の力を、私のまわりの人達が望むように、傷ついていく… みん…

聖なる誘惑と彼女の疵

夜も更け、周りの空気が冷め静かに夜の帳が空を包み込む頃、 青華祭舞踏会もやがて後半の幕にさしかかっていた。 周囲の生徒達の歓声は役者、泰星の動向に収束されるものと思われていた。 しかし、当の泰星はややもしてから舞踏会舞台の表から席を外しており…

女神は夜に踊る

夜には月に導かれし光がある。 心が晴れてすれば‥光は届く その無垢な心 何故闇に閉ざそうとする? 懺悔‥後悔… もう、とうの昔に捨てた‥ 青華学園内の講堂は合い重なる歓喜と相まってその昂ぶりは最高潮を迎えようとしていた。 控室の一席で美香は自分の携帯…

青華祭

さぁ。 宵闇の光を浴びて輝く暁の乙女よ。 この日こそが、私が乞い、求める全てが叶う日であると切に願う。 私がこの目で見るものは全て真実。 私が信ずるものも、全て真実。 願わくば、今日と言う日がいつか振り替える過去の自身にとって、 忘れ得ぬ日にな…

宴の前夜に…

青華祭前日の夜。 学院内は明日に向けた準備に余念のない状況でいつもより遥かに多くの数の生徒が氾濫していた。 『伊達先生。明日の祭の施行に向けた準備もとどこおることなく進んでるようですな。こちらとしても伊達先生の助力にはただ賛辞の言葉を添える…

眠れる獅子

『君の能力‥ ヒトの心の真実をその瞳に焼き付ける能力だ。 つまりは、彼女が見る瞳の奥に眠る少女こそが、 鍵となりえるということか… まだだ、まだ遠すぎる。しかしすべからく時間と言うものは無情に過ぎていく…』 週末の土曜日の朝、南が晋子の館の二階の…

縁起

『すなわち縁起とは、因縁生起とも呼び、他から縁となって生じるものから関与する一般的事象のことを…』 『一般に縁起は悪いイメージに結び付けられやすい。だが、かならずしもその解釈は正しいとはいえない。』 『世界全体の調和もまた、一つの縁起の背景に…

胎動

『人間の最大の恐怖は孤独である。 …それなのに人はなぜ自ら一人になろうとするのを望むのか。 なぜ、解らないのであろうか。 孤独こそが、魂を蝕む最大の毒であるということを。ある者は云う。 孤独を悟り、誰かを求め、永遠を誓う。 だが、人が人である存…

友の死、そして…

イズミの死から一夜明け、青華学園の講堂にて事の経緯を一同、生徒の前にて伝えようとする光景が繰り広げられていた。 突然の同級生、同世代の少女の壮絶な死に周囲の生徒達は驚嘆を隠せずにいた。講堂の前では美香が漆黒のスーツに身を包み、凛とした表情で…

黒い断頭台・2

聖堂にて。 一人の老婆らしき女性とそれに寄り添うように佇む一人の若い少女の姿があった。 『冷たく、妖しい氷の瞳の少女… もしや、きやつが…』 聖堂の扉は幾重にも張られた結界にて封印されている。人はおろか蟻の入る隙間さえ幾分も存在するものではなか…

黒い断頭台・1

外の風が強く、冷たさを増して美奈に染み付くように差し込む。 美奈は、声にならない悲鳴の行方を辿ってその足を早めていた。 『声…ううん、私ならわかる… イズミは、あの場所に…』外に浮かぶ景色に目も暮れることもなく、美奈は昨日イズミと二人で話したあ…

薄紅の落葉の下で

もし生まれ変わった時に自分の望む世界があるとしたら、私は何を願うだろう。大切な人がいて、大切なものがあって、 その先に、 何があるというのだろう。 未来… 望まない人間にも、訪れるものだということをまだ私は知ることはできなかった。 『………』 血の…

時の狩人・2

『裏切られる想いなら始めからなかったことにしてしまえばいい。 心の痛みを引きずって生き続けるというのか? この手を取れ。 ‥お前には力がある。 お前を傷つけた愚劣な輩に狂気の刄を。』 夢だ。 願わくば、あの時からの出来事全てが夢であってほしい。 …

時の狩人・1

『そうか、奴らはここに集まるのか… さすがは“サトリの法”を持った能力者だ。これなら、鍵の存在をこの俺の手中にいれることもたやすい… フッ、待っていろ… 鍵さえ手にいれれば、この俺が、秩序さえも、全て…』 『…誕生日?』 南がきょとんとした表情で美香…

追憶のソリチュード

一瞬、淡く白い光がぱっと輝いて収縮して霧散するように消えた。 それは不思議な感覚だった。まるで身体の中に新しい熱を帯びた脈動が駆けるようであった。 『これは…』 考える間もなく、疲労した肉体がひどく睡魔を呼び覚まそうとしているのか、イズミはそ…

母のナミダ・2

『貴方は、誰…?どうして、能力者のことを知っているの?』 『私の記憶が、呼んでいるから… 歩まずには、いられないの。』 その少女は美奈であった。満身創痍のイズミに歩み寄り、そっと手を貸そうとする。 その屈託のない表情にイズミは抵抗するのを止めた…

母のナミダ・1

不思議な感覚だった。 口が熱い。 まるで焼けただれるように口が熱い。 まるで鉄の粉を飲み込んだかのようにざらざらした感触がある。 無意識に軽く痺れかけた片方の手で口を拭おうとする。 放っておいたらまた意識が飛んでしまいそうだ。 いったいどのくら…

朝を願う者・2

『…ミイラ取りが、ミイラになってしまったか。』 静粛な聖堂の中でひっそりと、一人の素顔を黒いヴェールに隠した老女が告げる。 『いえ、 もともと彼女に渡した力はさほどの物ではなかったではないですか。だとすれば…』 一人の少女が憂いを込めた瞳で相づ…

朝を願う者・1

『…眠れないや。』 別段不眠症でも何でもないはずの南が、最近はいつにも増して夜を心地よく満喫して眠ることができなくなっていた。 無論、この日常を何気なく生きる中で少しの不安はある。それは誰もが持っていることであり、大事の前の些事に過ぎない。 …

復讐の女神・3

一人、部屋の蛍光灯を消して南はベッドにもぐりこむ。 こんな静寂過ぎる夜は落ち着かない。 それは思い出したくない昔を、思い出してしまうから…? それでも、もやもやとした気持ちを消すには瞳を閉じてうつむくしかない。 ベッドに入ったまま、南は数時間前…

復讐の女神・2

『月島さん… 私はね、貴方の敵ではいたくないの… 私に代わる、あの人の大切な娘も同然の人だから、 だから、貴方が死んでしまっては、 あの人はもうたちなおれなくなってしまうの… だから、それだけは…』 美香は、次第にいつもの朗らかな笑みを取り戻してい…

復讐の女神・1

『“虚栄の塔”を裏切った美香は殺される…?』 『どうして、あなたが…』 視線を伏せ気味にしたままで、美香は語り始める。 『私を苛ませたのも、また、11年前のあの日から…』『北織さん。 すごく綺麗ですね、その旋律。』 そのピアノの旋律に心を魅入られ、い…

グッド・バイ

自分はひとりでいきていくそう、心に誓う。 そして、その道の途中で誰かがそっと手を差し伸べてくれるんだ。 『一緒にいきよう…?』 笑顔で差し伸べられた君の左手。 今、僕のこの右手と堅く握りかわすことができたのなら…『いっしょに…』 それは一日、一ヵ…