2006-12-01から1ヶ月間の記事一覧

無慈悲な微笑

『お願いします。…おじさんと、ひとりにしてください。』 『月島…さん。』 南が床に膝を落としたままの美香を軽く促す。 南の表情はまるで深く、暗い闇そのものに覆われているかのように見えなかった。 『……』 場を冷たく静かな空気が流れて声すら出ない。 …

氷の少女を名乗る・7

月島南編・第七話『北織君…か?』 ご無沙汰しています。と美香が軽く会釈すると片桐もそれに答えるように頷いた。 『何か、元気がなさそうですね。 私の気のせいだったらいいんですけど。』 いつの日だったろうか。摩梨香が存命だった頃、片桐は当時別の喫茶…

氷の少女を名乗る・6

月島南編・第六話『…おじさんが?』 『そんな…』 南は焦りの色を隠せない。傍にいた晋子がたしなめるようにつぶやく。 『店ほっぽって遊び歩く人じゃないっていうのにね…まったく、どうしたっていうんだよ。』 晋子は、自らの商売道具である数珠を手に取り、…

氷の少女を名乗る・5

月島南編・第五話 『まさか…』摩梨香の幻影。 そうだ。幻影なのだ。まぼろし。そこにはいない幻。だが、かすかに浮かぶ過去の記憶と情景の断片は執拗に片桐の心を冷たく縛り付ける。いっそ、それも夢であってしまえばどれだけ楽なのだろう。 なまじ、記憶が…

氷の少女を名乗る・4

月島南編・第四話『パパ…』 『摩梨香…! マリカ……っ!』 夢…か。 もうこれで何度目だろうか。摩梨香の夢を見るのは。 夢の中で何度も自答する。だが、夢の中の摩梨香は悲しい微笑みを浮かべるだけで何も自分に問い返してはくれなかった。 軽くため息をつきな…