復讐の女神・1

『“虚栄の塔”を裏切った美香は殺される…?』
『どうして、あなたが…』
視線を伏せ気味にしたままで、美香は語り始める。
『私を苛ませたのも、また、11年前のあの日から…』

『北織さん。
すごく綺麗ですね、その旋律。』
そのピアノの旋律に心を魅入られ、いつしか二人は語り合う仲となった。
『私の名前ですか…?
十葉です。
東城 十葉です。』
『十枚の葉とかいて、“みつは”と呼ぶんですよ。
かわいい名前でしょ?』

どう相づちをうっていいのかが分からず、美香は戸惑う。
『今度、私も隣町の公演会に出席するんですよ。
北織さん、よかったらきてもらえるかな?
…前から誰かに見てほしかったの、私の音楽。』

『3日後に?』
片桐は少し思慮を張り巡らせた。が、少しして美香の意見に賛同し、3日後の公演会の参加の準備をしようと美香に言った。

『あのとき、私はあの子が淋しそうにしている表情を理解してはやれなかった。』
そして、公演会当日。
最後は美香の友である十葉の出番であった。しかし、幕間の裏は何やら騒めきを隠さぬまま狼狽としていた。
『出演者が…? そんな…』
『会館前の大通りで、大型自動車に…?』
『そんな、バカな…』

結局、十葉の生存の安否は伝えられぬまま出演者一身の都合ということにより、その年の公演会は幕を閉じた。
信憑性のない噂は幾度となく出ていた。十葉を轢いた車はその公演会の資材を運搬していた関係者だったとか、もろもろの噂はやがて時間と共に掠められてはいくのだが。
そして、その年の翌年、翌翌年と美香は器楽演奏の部門において公演会のトリを務める大役を果たす。
そして、美香は高校卒業と同時に片桐達の元を消息を伝えずに霧に消えるように去ったのであった。
『…そして、彼女が消えてから、迎えた、娘の死。』

…自宅の部屋でまるで眠るように横たわっていた摩梨香。
彼女の日記の最後の一行には不可解なことばが印されていた。
『報われない魂が…この場所に、苦しさをもとめてやってくるの。
…もう、たえられない。』

すべてを失った片桐はまた一から人生のクビキをやり直す為に『siesta』を開業するに至った。



『そう、記憶を思い出した…やっと、私も…』