2007-05-01から1ヶ月間の記事一覧

追憶は皮肉な雨と共に

夏の終わり、瞳を閉じたら蘇る色褪せた微かの記憶。それが、もし彼女の過去と現在をつなぐ光のように導かれると言うのなら‥彼女はどこから現われて、そして、どこにむかおうとしているのだろうか。 不意に襲った偽りない感情。 叶うのなら、ずっとこのまま二…

美奈、夜の幕間に

夜が一層更け、都心のビルのネオンが際どく輝く中セント・ホスピタリアの廊下が不意に賑わう。 『…また外出?無断で?しょうがない子ね。あの子は本当に‥』 だがテラスで一人煙草を吹かす担当医の松室の表情はどこか不思議と平静とした笑みさえ浮かべるよう…

満月の犲狼・1

一人、館の奥の小部屋のTVを凝視する晋子の表情は何時にも増して険しい。 部屋のカーテンを包む漆黒が一層映えて見える。外はまだ夜が包んでいた。TVの下の床に無造作に置かれた今朝の朝刊にも昨夜の出来事の概要が記載されていた。さすがに一面記事を飾るも…

青華学園編・これまでのあらすじ

心に傷を持った少女とそれを守ろうとした一人の少女の結末は最悪の展開となりその幕を閉じた。山室イズミの死からほどなくして青華学園に新しい講師が現任・北織美香の代わりとして就任した。 名を伊達一真と呼ぶその男は高い知性と独特の審美眼よりクラス一…

大殺界

聖堂を陰欝な空気が支配する。 観客の騒めきはとどまる所を知らず混乱の度合いをさらに深めていった。 『どうして‥ドアが開かない!』 『電話も通じない‥ そんな、それじゃ私たちはこの中に閉じ込められてしまったっていうの!?』 『皆さん!落ち着いてくだ…

とこしえの記憶・3

由香里は支えが無くなった一本の花のように力を失い、気を失っていた。 南はそっと由香里の額に片手を添えるように触れた。すると南の精神力に共鳴するように鼓動が脈をうつように繋がり律動する。 由香里の精神とバイパスをつないでいくように、由香里の心…

とこしえの記憶・2

『由香里っ…!』 漆黒の衣に身を包んだ南を止めたのは意識を不意に取り戻した由香里であった。『殺さないで… その人を‥先生を、殺さないで… お願いだから…』 由香里の哀願に南の瞳が収斂する。 迷い…錯乱… だが決してそれだけでは語れない感情が南を襲う。 …