宴の前夜に…

青華祭前日の夜。
学院内は明日に向けた準備に余念のない状況でいつもより遥かに多くの数の生徒が氾濫していた。
『伊達先生。明日の祭の施行に向けた準備もとどこおることなく進んでるようですな。こちらとしても伊達先生の助力にはただ賛辞の言葉を添えるばかりです。』 
校長の推薦の元、伊達は青華学院学園祭実行委員長に任命されていた。
『しかし、粋なことを考えるものですな。
TV、マスコミでも取り上げられている注目の若手女優、若林早夜の招聘。
そして、恒例の夜行舞踏会然り‥
明日は、眠れない夜になりそうですな。』
『はい‥
それも、校長。貴方の助力あっての賜物。すべてこの私にお任せください。
伝説の千夜一夜物語にもひけをとらない、宴の幕を拝めることでしょう。』





一方、セント・ホスピタリアにおいては
退院を間近に控えた片桐の元に寄り添う南の姿があった。
南は、病室の窓辺からかすかに見える秋空の星を眺めていた。
その姿はどこかはかなくも悲しい表情を覗かせていた。
『そんな表情をしなさんな。若い顔が年甲斐もなく老けるぞ。占いを生業にしている誰かさんの顔になってしまうかもしれんぞ。』

『退院祝いに呪い人形渡されても知らないわよ。』
隣で唯がくすっと思わず吹き出していた。片桐はバツが悪そうな表情で南をじっと凝視していた。
『明日は青華祭だな。
まぁわしは明日にはまだ退院できないから南と唯ちゃんの晴れ姿を見ることはできそうもないが‥』
『なんで唯だけちゃんづけなのよ、もう。』
唯が両手で片桐に歩み寄る南をたしなめる。
『そういえば、南、明日着ていく服装は用意してあるのか?さすがの年に一度の青華祭だ。それなりに服装に気遣っていかねばならんだろう?』
南は首に軽く人差し指をあてて迷い込んだ表情をみせる。
『黒法衣があるから、あれでいいよ。
ドレスとか私の柄じゃないし。それに、あの法衣、薄生地だし、下はスカートみたいなものだし。まぁ、なんだろう、あれで‥』
『まったく大雑把なとこは誰に似たんだかな。
そういえば、北織君はもうあの学校の教員を辞職するのか‥だとしたら、siestaに戻った時、ちょっとお願いしてほしいことがあるんだが‥』
『年甲斐もない伯父さんが20も年の違う女性に手垢つけて何する気よ。』
『はぁ?馬鹿にしてんのか。まったく邪推だけは一人前だ‥ 
いや、こっちのことだ。もっとも、たいしたことのない些事であることに変わりはないがな‥』     


同時刻、晋子は一人タロットカードの占いの結果を吟味していた。
『この数週間、現われなかっだた月のカード‥不安、悪い予感‥
気配。敵の…
悲しい旋律‥跳躍…血…
鮮血…明日、明日の夜…これは…』