友の死、そして…

イズミの死から一夜明け、青華学園の講堂にて事の経緯を一同、生徒の前にて伝えようとする光景が繰り広げられていた。
突然の同級生、同世代の少女の壮絶な死に周囲の生徒達は驚嘆を隠せずにいた。講堂の前では美香が漆黒のスーツに身を包み、凛とした表情で昨夜の件、そして自らの教え子の死を共に分かち合うように憤りを込めた口調で語った。

『先生…』
講堂の壇の傍で南、唯、藍里が共に悲痛な表情を隠せぬまま美香の壇上の言葉に耳を傾けていた。
『許せない…
イズミを、あの子を殺したのが、私たちを付け狙う能力者だというのなら…
私は絶対に許せない…』
南の肩は小刻みに怒りで打ち震えていた。唯がそっと南をかばうようにたしなめている。
2人はまるで昔からの知己であったかのように、イズミの死を深く嘆き悲しんでいた。

だが、一つの事の終末は単なる家族の絆の喪失、すれ違いから来た悲劇のなれの果てという構図にはとどまらなかった。
もともと、イズミは学園内で他者と交流の深くある生徒は数えるほども存在していなかった。
それでいてイズミが半年前伯父の伸の計らいで転入した生徒ということも相まって生徒間の噂は決してよいものばかりではなかった。そして、イズミを、一人の生徒として正しく保護できなかった落ち度として美香に攻撃の矛先が向けられ初めていた。



『私が、異動…そんな…』美香は校長室で校長の言葉を耳に傾ける。だがこれらの言葉は美香にとって辛辣極まるものであった。
山室イズミに対する教育、保護管理行き届きの不十分の債に問われ、美香に実質青華学園の左遷を申し出ようとする試みであった。
『幸い代わりの任に足りえる男は用意した。
伊達君は君に比べ人格者で名高い男だ。後顧の憂いは無用だ。1週間後の青華祭まで、身支度をととのえていてくれたまえ。』

美香の表情は沈鬱なものであった。
結果として、イズミの命を奪った直接の元凶を間接的にせよ退治することはかなえられた。
だが、美香に残ったのは払っても拭えない一抹の不安と虚無感であった。
『青華祭か‥』

美香はその晩、晋子の元を訪れ、イズミの墓標となる郊外の緑地庭園へと足を運んだ。
『あぁ、寒いねぇ外は。さすがに11月にもなりゃあ外の風はあたしらにとっちゃきついわね。』

イズミの墓標はイズミの事故で亡くなったかつての父親側の親族一同が作ってくれたものであった。だがその墓標に伸の姿は入っていない。
昨夜の事変は一部地方の新聞にも掲載されて既に耳に入っていたのであろう。伸の墓標をイズミのそれに加えることを激しく拒絶した。
『美香、迷っているのかい? あの子は、精いっぱいに生きたのさ。
それを証拠に、昨日の夜から明け方まで必死に私は気を張り詰めていたが魂がくすぶっている空気は微塵もなかった。
おそらくは、安らかに…ね。』
美香の瞳から一筋の涙がこぼれ落ちる。力で必死にこらえようとするが落涙はとまらない。
『お前だけが、決して悲しいわけじゃあないんだよ…』
『く‥くうううっ…!』
晋子は、イズミの墓標で膝を落としむせぶ美香をそっと、やわらかい瞳で見守るように見つめていた。
『そして、悲しむ時間さえもないほどに、わたしらには、やるべきことが待ち受けているのだからね‥』