2008-06-01から1ヶ月間の記事一覧

月燭蝶・5

夕暮れ前の日が欠ける空が微かに窓際の隙間から見える。 何となく時間を潰すつもりが気付いたらこんなに経っていようとは悟流の想定外であった。 『あと一時間か。』 テーブルには作り置きのパスタが置かれている。 慌ててこしらえたものなのかはわからない…

月燭蝶・4

『明日の天気予報ですが、先日より関東地方に停滞した低気圧により‥』 一人、悟流はTVをつけたままベッドに身体を預けていた。 『財布、買い替えないといけないな‥金はともかく、あれにはツレの文に明日の為に頼んでいた親睦会用の花束の受注書が… 仕方ない…

月燭蝶・3

いつもの場所に、彼女はいた。 何か目的があるわけでもなく、一人防波堤越しの海を見ながら黄昏ている。 『どうしたの?』今さっき見えた奴等の姿は幻覚だったのだろうか? 見間違いをするほどまだ視力は衰えてはいない。冗談も過ぎる話である。 『い、いや…

月燭蝶・2

路地裏で闇に紛れて男達の談笑が漏れる。 『まだ見つからないのか?』 『はい…』 『馬鹿が。事は急を要する。vanity様の怒りを買う気か?』 『いえ。膳立ては既に揃っております。 仮初めの術法を必ずしやこの世界で成就させるために。 しばし、神よ。両眼を…

月燭蝶・1

冬の風が強く揺れなびいている。 まるで何かが悲しみを伝えるように。 そしてまさかの通り雨。 都心のネオン街にたむろう人々は急な雨に戸惑いを隠せぬままざわついていた。『まったく、誰なんだ…今日は一日晴天なんて行った天気予報は‥』 急な通り雨の中、…