血染めの舞踏衣(ドレス)

『あなた‥その力…
貴方も、能力者なの…?』南が怪訝な表情で美奈を見つめる。
美奈は黙って添い寄せた泰星への手を離し、軽く膝に付いた返り血を拭ってゆっくりと南のほうに歩み寄る。
『…まるで私の力を、私のまわりの人達が望むように、傷ついていく…
みんな…傷ついていく…
私がいるから…』
消沈した美奈の表情を南がそっと見下ろした。
『下、向かないでよ。
私も、そうだっていいたいの?美奈。』
『えっ…?』
『花が散っても、私は死なない…』
だって、私には目的があるから。
私は、姉さんを、捜し出さないといけない‥
もう一度、姉さんと出会って、普通の一人の女の子として暮らしていけるように。
叔母さんからの予兆を聞いて、もう私は覚悟してた。この街に蠢く瘴気。
きっとよくない出来事が起こる予兆。
消え行く記憶と私…でも、私は負けない。
『美奈。こんな私が友達と呼べる人に成り得るかはわからないけど…
友達の、イズミの無念‥その気持ち、私も背負う。ううん、背負わせて‥
ひとりじゃきっと恐い、この先も、きっとみんなとなら…』
『美奈。私もいるよ。
だから、落ち込まないで。』
南と唯がそっと振り向いた先には、まだうまく笑えないながらも懸命の頬笑みを浮かべる美奈の姿があった。



『泰星さんは…?』

『大丈夫。致命的な傷はもう消えたから。
だからもうあとは自然に目覚めたときに身体は回復してると思う。』

美奈の能力は二人の想像を凌駕するものであった。

場の妖しい空気が未だ醒めぬ中、唯は南に先程の泰星を狙った謎の人物の行方を探り出すように問い掛けた。
『この学校の中にいる‥きっと。この学校の中で今この場から姿を消している人をさがして。
もしかしたら、イズミさんの一件の鍵も握っているのかもしれない…』
南は、唯の言葉に応じて一人講堂の扉を開く。すると、美奈もあとに続くように南の背後に歩み寄った。
『美奈…?』
『どこにいくの?』

『戦うのよ。私と、私の仲間を傷つけようとするものすべてと。』

南の言葉に追従するように二人は講堂を後にした。


『鍵とはいえ…魂を食らうことなど‥』
『鍵となる人物を捜し出して、虚栄の塔の組織は何かを企んでいる‥きっと、恐ろしい何かを…』
南は美奈にそっと尋ねた。それはこれまでの経緯と呼べるもののいきさつであった。だが、美奈は表情をうつむけたまま南の問いにはっきりと答えようとしない。
『自分が何者かさえも、わからない…あいまいな、記憶…
ただ、言えるのは私と関わって行く人たちが、みんな傷ついていくということだけ…
だから、恐かったの。もうこれ以上人と接することも。もしかしたら昔私は誰かを、深く深く傷つけてたんじゃないかとしたら…
私は、臆病だから…』
『ん、まぁ、その発想はもうやめようよ。
その過去も踏まえて、美奈、貴方なのよ。だからそれは変えられない。
貴方が記憶を取り戻すのが目的なら、私は姉さんを捜し出すことが目的だから。だから、お互いの目的に向けて、今は精一杯生きよう。
そのドレス、もったいないね。血が‥
今度私が洗ってあげる。こう見えて私、洗濯は得意なのよ。』
何気ない、それでも優しい南の言葉が美奈の心を静かに諫めた。