復讐の女神・2

『月島さん…
私はね、貴方の敵ではいたくないの…
私に代わる、あの人の大切な娘も同然の人だから、 だから、貴方が死んでしまっては、
あの人はもうたちなおれなくなってしまうの…
だから、それだけは…』
美香は、次第にいつもの朗らかな笑みを取り戻していた。
南にそっと自分の想いを込める様はどこか凛凛しくも、はかなくもあった。
『先生…だったら、教えてよ。
隠してないで、私に教えてよっ!』
南の声が屋上を駆ける。それと同時に美香の頭脳に不可思議な旋律が亀裂のように走り込んだ。
『ううっ…ぐっ…』
美香はその場でがっくりと膝をつく。
『あいつらが探しているのは、“鍵”と呼ばれる人物を探すこと…
その人物を利用して、何を探そうとしているのかはわからない…
探索…洗脳…儀式‥いや、ちがうわ…
そんな言葉ではたとえられない恐ろしい事が起きてしまう…そんな気がする…』

『その話、もっと詳しく聞かせてもらうよ。』
聞き覚えのある声が響いた。屋上の扉から一人の女の姿が見えた。晋子であった。
その表情はいつにもまして険しいものと化していた。『おばさん…どうして、こんなところに?』
『貴方は、月島さんの…』
美香は面識があるという程ではなかったが、晋子の存在は南を通じて知り得ていた。
『魂が…報われない魂がこの世界をくすぶっている。
しかしなぜなんだい?
それがあの組織と何の関係がある…?
確かに11年前の数奇な事件の背後にはあの“塔”の存在があった。
しかし、決定的なものがなかった。
だから私も自らのまわりに火の粉がふりかからなければと、やがて時間が経つことにより風化されるであろうことを乞い願ったのよ…
でも…』
『“塔”は暗躍しています。いえ、暗躍しているからこそこれから先彼ら通りのシナリオになることを止めないといけない…
そして、それは一度は組織に魂を売ってしまった私や、あの子達の運命…だから…』


『だったら、私も…』
南が間を牽制して入る。
『南ッッッ…!!』

晋子の怒号にも近い声が南を止める。そして次の瞬間、厳かな表情を崩す事無くそっとつぶやきかける。
『もう、貴方は手をひきない。南。これはもう、貴方では解決できない。』
悲痛な通告だった。
『そんな…そんなのって…』
『ただ力が使えるだけが能力者…そうではない…
南…おまえはね…』