2006-10-01から1ヶ月間の記事一覧
『…イズミ』 ひとりきりの教室に、一人の少女の小さい声が響く。『…藍里』 いつにも増してイズミの顔には生気が感じられない。もともと周囲に笑顔や愛敬を振る舞う女の子ではないということは、かれこれ古い付き合いになる深見藍里にとっては百も承知なのだ…
あの出来事から約一週間が過ぎようとしていた。 伸は、まるで一週間前までの行動、言動が嘘のように籠の中にいる一人娘を愛でるようにイズミに優しく振る舞っていた。程なくして学校に行き始めたイズミにたいして気遣ったり、心配をするかのような言葉遣い。…
『イズミ…貴方…何やってるの!イズミ!』 甲高い悲鳴にも似た少女の声が闇に響いた。 『イズミっ!』 『紗映…なんでもないのよ。何でも…』 にやりとした含みを込めた表情でイズミは笑う。まるで観念しきった殺人犯の心のように、イズミの右手にはわずかほど…
病室のドアの前で、ひとり鏡を見つめながら佇む。 そして、訪れるものは激しい後悔と憎悪。 イズミは、自ら手に取った武器を床に再び置いた。 『…イズミ。 君は何がほしい?』 虚栄の塔、祭壇の間。そこはまるで何か違う精神世界が支配しているかのような不…
『…先生。』 優しく、暖かい声が耳に伝わる。 その寸前までは悪夢とも呼べる恐怖と絶望が頭にこびりついて離れなかったというのに。『井上さん? あなたも…なの?』 美奈は、軽く首を縦に振った。 そこは、美奈の自宅であった。 外は気付いたらぱらぱらと小…
今日も放課後、ほとんどのクラスメイトが家路を急ぐ中、美香の帰路を待ち兼ねているかのような仕草で念次は廊下にたたずんでいた。 『…懲りないのね。』 『いつだって優等生は校則の規範から外れているものさ。そうでしょ?』 念次は軽く微笑む。どうやら数…
『海馬マリヤを殺せ。 彼女に連なる能力者を殺せ。 彼女はこの世界の摂理を壊すもの。 この世界にいてはならない存在なのだ』 浴びるように聞いた言葉であった。 もはやこの未里市という街が尋常でない条理に支配されていることは必然であった。 相次ぐ謎の…