2009-01-01から1年間の記事一覧
美奈は、松室の言葉に従うままにセント・ホスピタリア内のラボラトリーに向かう。『…これで、予感は確信に変わる。 そして、この街に巣食う病魔の正体もつきとめられる。』松室は、研究室につくや否や、美奈にとある話を語りはじめた。 『一人でお喋りとは悪…
『勝手に信じて、勝手に信じるのをやめて、 裏切られたと思い込んで、それで、信じなければよかったなんて‥ 馬鹿みたい。 そんなに貴方の心は単純なの。願わくば、そういうことを愛とか、‥間違っても言わないでいてほしいわ。』 不意にかじかむ両手。 止まら…
『ねぇ、子供の頃を思い出して… 何かを見つけて、何かを失い、 そして、少女たちはやがてどこへ行き、どこへ消えていくのでしょう?そのカーテンの先には違う世界があると思っていたわ。 薄汚れた幻を焼き付けて それでもその先には何も存在しないことに 何…
『不意に訪れる雨。 その雨は、誰の為に降るものなのか。やがて冬が終われば、全ては安楽へと導かれる。悲しいな。 神は、未だ終末を望んでいないということか。 暗黒と凶滅のディストラクション…今宵こそは、等しく我が願いが叶うことを祈る。』 それは、誰…
都内の街角、喫茶siestaには何時もの朝を告げる一日が始まろうとしていた。 日常をそつなくこなす。それ自体に特別の意味は存在しない。 だが、確実に一つの手がかりをつかむために片桐は一人コーヒーカップを拭き取りながら物思いに更ける。 日常に、自分の…
再びこの街に幾度となる繰り替えされるであろう夜明けが近づこうとしていた。 眼前の南は埠頭のベンチに身体をより預けるようにして眠っている。 意識は目覚めているのだろうか? 不意に、どうでもいい思考が地場の胸を過る。 そして、地場はあの言葉を思い…
『ガソリン…?』 明らかに室内から異質の、意識を不快にさせる臭いが充満していくのを感じた。 だが、地場は極度の精神衰弱のせいかその異変には然程にも気付いてはいない。 『まさか、黄の手下か‥?用済みになった俺を始末しようと‥く、くくっ‥ははは‥ なん…
南の表情には寸分の迷いも狼狽も無かった。 ただ、そこには毅然とした意志を持った瞳があった。地場は彼女を直視さえ出来ずにいた。 自分の方が本来ならば圧倒的な優位な状況にあるはずなのに…全ては自分の計算通りのはずであった。 だが、今ここに来て彼女…
『余りにも痛々しき悲痛なる姫君の運命。無慈悲に、数刻の暗転を持ってして彼女は再び窮地の淵へと落とされる。悲しきかな。 これもまた彼女のさだめ。 百合の聖書がもたらした、“救い”そのものであった。』 それは時間にして、数秒にも満たない一瞬の間合い…
闇が目前に迫り、太陽が地平へと沈もうとするその刹那。 『この感じだ… 私があの時に感じた冷たい妖気。ずっと誰かに凝視されていたかのような感覚。 私はその感覚の微かな跡を辿っていた。確信はないけど…でも…』秘めたる想いの在処の先に待ち受けていた未…
『奇遇だな。』 含みを込めた表情で茗荷は悟流に語りかける。持っていた携帯灰皿からは灰の残骸が今にも溢れそうであった。 『茗荷さん‥どうしてこんなところに。 まさか、有給休暇の余暇に来たわけじゃないでしょう。』 『相変わらずのつまらん冗談だ。 営…
『…もしもし。』 その最初の第一声はどことなく脆く、何かにすがりついたような声のように聞こえた。 そもそも、メールアドレスに記載されていた数字をそのまま辿って打ち込んだ数字がそのまま彼女の電話番号になっていたのは不自然ともいえる偶然であった。…
翌朝、悟流は不意に目覚めた。 自宅のテレビがつけっぱなしになっていた。たまたま映っていたその時間帯のニュースで大元の怪死に連なる情報提供の訴えをキャスター同士で議論していた。 ブラウン管の先の事件の話なのに、まるで現実は浮ついた一つの雲のよ…