とこしえの記憶・3

由香里は支えが無くなった一本の花のように力を失い、気を失っていた。
南はそっと由香里の額に片手を添えるように触れた。すると南の精神力に共鳴するように鼓動が脈をうつように繋がり律動する。
由香里の精神とバイパスをつないでいくように、由香里の心の深層が言葉無き言霊のように南に伝わる。
『憧れ‥
好きかなんて、わからない‥
でも、先生は
昔に、大切な一人の生徒の女の子を失っていたの。
私だけに話してくれた。
その守れなかった少しの想いと信じる力が
今の先生の生きる力になってるらしいっていうこと。
とある枢機卿と名乗る人は
先生に、こう教えを伝えたらしい。

大切なものを守れない定めを己の無力に転嫁するのは愚かだ。
なぜなら、この世における摂理が、
すべからくねじまがったものになっているから。
選ばれし者には、それを矯正する権利がある。
その想いの力がかならず血となり肉となり、歪みを変えていくのだと。』
『先生は選ばれし七人の一人として、この街のどこかに存在する能力者を捜し出さないといけないと言っていたの。
それには私の力が必要だって。
この学園の中から強い力を感じると‥』
『でも、その鍵をみつけて、先生の一番大事な使命が終わったとき、
私は、どこにいけばいいのかな‥
楽園…
作ろうとしてもそれは繕えない蜃気楼のようなもの‥
先生。
ごめんなさい。
もっと先生の悲しみを受けとめてあげればよかった。そうしたら、もしかしたら私が
失った代わりの存在になりえたかもしれないね。』

『由香里の遺志を取り込んだのかい‥?月島 南。残念だが、無駄だ。
由香里の能力者としての力は今この手中にある。いわば、そこにいるのは、脱け殻だ…
さぁ、死ねっ!』
伊達がまがまがしい瞳を南に向け、疾風のごとき早さで突進する。
だが、その時ピキッと何かに跳ね返されるような音とともに伊達の拳は虚しく宙を弾いた。
『バ、馬鹿な!まるで‥氷の壁‥壁が‥』
『先生。
由香里と美奈のいる前で、こうはなりなくなかったんですよ。本当は‥
でも、姉さんを探す以外にも、私には目的ができた。貴方の目を覚ますことはかなわないのかもしれない。

だから、
由香里をこれ以上悲しませないで、逝って。』

『何…っ!』
それはほんの一秒にも満たない間であった。

南が人差し指をそっと伊達に差して魔力を込める。次の瞬間、まるで人形がゼンマイを壊され崩れ去るように静寂を保ったまま、弾けるように冷たい空気に肉体をさえぎられ伊達が倒れた。
『これで‥
由香里‥貴方のかたきは…うぅ‥うああああああ!!』
うつむき、その場で冷たい風に包まれるように凍り付いた由香里の肢体をよそ目に、南はその場に泣き崩れた。