青華祭

さぁ。
宵闇の光を浴びて輝く暁の乙女よ。
この日こそが、私が乞い、求める全てが叶う日であると切に願う。
私がこの目で見るものは全て真実。
私が信ずるものも、全て真実。
願わくば、今日と言う日がいつか振り替える過去の自身にとって、
忘れ得ぬ日になりますように…
その日の青華学院はいつもとは明らかに違う燦燦とした雰囲気に満ちあふれていた。
学院の駐車場には数社の報道陣が駆け付けている。
無論その内訳は本日の青華祭を一層盛り上げるために用意されたゲスト、役者の招聘である。
今回は先日の失踪騒ぎから無事帰還し役者活動を再開させるに至った10代の若手女優、若林早夜、
来週から公開される新作の恋愛映画の主役に抜擢された気鋭の若手役者、泰星純一がこの学院内に現われた。
早くも校内には泰星純一の追っかけと称される若いファン達が賑わっていた。
前半は主に泰星が演じる小演劇、
昼食を挟んで後半のメインイベントは、夕方17時より開催されるステンドグラスに覆われた学院内のホールにて学院内のメンツを集結させての大舞踊集会が予定されていた。
今回、その舞踊会の器楽を担当することになったのが美香であった。
先日正式に受理された青華学院の離職届と相まって奇しくもこの職務が青華学院、最後の仕事となることが決定していた。
美香の隣には夕方まで時間をもてあますように退屈を過ごしている南、唯、藍里の姿があった。
『似合ってるわね。その服。』
唯のこの日の服装は片桐から譲り受けた薄いシルク柄のドレス状のワンピースであった。
藍里は夜に親族との会食を控えており服装は制服のまま、南はどこか漆黒な迷彩を放つオリジナルの黒い法衣をその身にまとっていた。
『役者の泰星さんがもうきてるんでしょ?
すごいねぇ。握手ぐらいしてもらおうかな?』
『またまた、ミーハーぶっちゃって。
身分を考えようよ、南。』唯が鋭くウィットの効かせた毒舌を走らせる。藍里が思わず含み笑いを漏らした。
『さて、あと1時間か‥』
美香は、職員室に戻った。そこには窓際で煙草を一服して美香に軽く会釈をする伊達一真の姿があった。
『どうも‥』
伊達は爽やかな表情で美香に目線をあわせて会釈する。美香は、相づちをうつように頭を下げたが、この一週間の身の回りの変化を思い起こすと正直に笑顔を作れない雰囲気にあった。
『今夜は、
素敵な夜になりそうですな。どうです、北織先生。

職務を今日で無事勇退され、肩の荷が降りる身だ。
貴方程の美人が独り身でいるのは、華にそぐわない。
何なら、
今日一日は、貴方の華となるよう振る舞ってみせましょうか‥北織先生。』
『御好意ありがとうございます。でも、私はこれからすぐに準備に戻りますので。失礼させて頂きます‥』

伊達は、自分に背を向け立ち去る美香の後ろ姿を見てふっと、軽く笑みを浮かべた。