女神は夜に踊る

夜には月に導かれし光がある。
心が晴れてすれば‥光は届く
その無垢な心
何故闇に閉ざそうとする?
懺悔‥後悔…
もう、とうの昔に捨てた‥

青華学園内の講堂は合い重なる歓喜と相まってその昂ぶりは最高潮を迎えようとしていた。
控室の一席で美香は自分の携帯電話の液晶を眺める。
この日のために、来たるべき彼女を待っていた。
しかし、先日から彼女の連絡はつかないまま、今日も変わらぬ平静を保ったまま美香はこの場所に足を踏み入れることになるのであった。
『思い出すと‥また、涙が‥ううん、だめよね。
昔のことも、今のことも、受け入れてそれからまた今日を生きていかなくちゃいけないんだから、だから‥』
美香は控室を後にする。
その30分後、美香のピアノの演奏により夕方から夜にかけて奏でられる青華学園祭の舞踏会の幕が開いた。

『盛況のようですな。これらの一様の演出も伊達先生がお考えになったのでしょう。』

『そういえば、肝心の伊達先生はどこに?』


盛況の狭間、伊達の行方を安否する教師一同を一瞥する先には伊達と須藤の姿があった。
『綺麗ですね。今日はまるで学園の中がお伽話の中の世界みたい。』
伊達は含みを込めた表情で由香里に笑う。

『北織先生、いや、元先生といったほうがいいのか。彼女の演奏が始まったな‥今日は、長い夜になりそうだ。
こうゆう気分はいついても悪くない。』
『こうゆう、気分?』
由香里が、きょとんとした瞳で伊達をみつめる。
『君も、いずれわかる‥大人になればね。』
お茶を濁したような表現に由香里の表情は軽くふくれていた。
『お伽話といえば、いや、お伽話ではないのだが、この街に過去のそれからいわれていた一つの悲しい物語があった。
とある時に聞いた‥遥か、昔、思い出せない‥いつか、由香里、君に聞かせたい。』
『そして、由香里。これからこの夜に起こるいかなる出来事に遭遇しようとも、君は、どうか君のままでいてくれ‥』