氷の少女を名乗る・4

月島南編・第四話

『パパ…』
『摩梨香…!
マリカ……っ!』



夢…か。
もうこれで何度目だろうか。摩梨香の夢を見るのは。
夢の中で何度も自答する。だが、夢の中の摩梨香は悲しい微笑みを浮かべるだけで何も自分に問い返してはくれなかった。 
軽くため息をつきながら、片桐はsiestaの看板を営業中へとひっくり返した。

『…おじさん。
おじさん!
もう、聞いてるの。うわの空でぼけーっとしちゃって。
まだぼける年じゃないでしょ?』
『ふっ…まったく、らしいな。
いつからこんなじゃじゃ馬な娘になったのやら。』
ため息まじりの笑いを思わず片桐が漏らす。
声の正体は南であった。
学校帰りの日課。もっとも今日はこれから夜までここで仕事することになるわけで、遊びにきたわけではない。しかし、店のがらんとした客の居つきを判断するやいなや、今日もかったるい仕事だなと思わず南はほくそえんでしまう。
『少しはマリヤを見習え。まったく…』
だが、南にまるで自分の娘のように叱責している自分も悪くないと思えるようになっていた。

『どうにも、あれで幼少期の頃は寡黙で自分の感情を押し殺すほど無口な性格だったと聞く。
思えばこの時期の女の子は、わからないものだ。
摩梨香も…な。』



複雑な心境を抱えたまま一人物思いに更けるのも悪くはないが、毎日だとそれも心が渇くだけであった。
『パパ…』
また、か。
この声は。
俺を、呼んでいるのだろうか。摩梨香。

その声に従うままにsiestaの看板を閉め、夜の街を一人さまようように片桐は歩きだした。

その一方、
マリヤは、再び晋子に呼ばれるままに館を訪れていた。
『マリヤ。
貴方は、何か私たちに隠し事をしていないかい?』
『………』
…to be continued.