第四の戦士、明かされた真実

『真実を知ろうとする心 その心に宿る
偽り無き想い。
例え、
きみの心が冷たく凍り付いた悲しい運命だとしても、それでも、
君を小さく想う心は忘れないと誓う。』






『時間だ。
君がこの場所で朽ち果てることで俺はただ一人目的を叶えることができる。

全ては、虚栄の神の御名の元に…』
『ま、待てっ!』
そそくさとその場所を立ち去ろうとする念次に南が痛烈な叫び声で威嚇するように引き止める。
だが、次の瞬間、南は背後から見えない何かに身体をがんじがらめにされるように呪縛された。
ぎしぎしと鈍い痛みが四肢をえぐるように刻む。
『う、うぐっ!み、みなと…
目を、覚まして…お願い…』

だが、湊は口元に妖しい笑みを浮かべてじりじりと南に近寄ってきた。
『殺す…
お前と、姉貴の葵だけは…』
『ぜ…なぜ…姉さんが、あなたの両親を…
そんな馬鹿な…ことが…』
『くっくっ…南、ワタシの両親は生きたまま家に火をつけられて灰になっちゃったんだよ…
だから、あなたも同じ目にしてあげるね?』
あの百合の聖書の謎めいた洗脳のせいなのか、湊の言葉には所々に狂気を込めた口調が見られた。そして、わずかばかりにその口を開き南を拘束したまま見えない力で背後に叩きつけた。『ガシャッ!』
途端に強く鈍い音がする。南が叩きつけられたすぐ背後には、廃棄物を加熱処理する為の旧式の焼却炉があった。
その扉は酸化銅のように赤く褐色していた。
『みなと!っっっっ!』
南が一瞬伏せがちで瞳を下にむけていた湊と目が合う。
『うふふ…』
湊の両瞳は赤く濁り、ぜぇ、ぜぇと小さな息づかいが聞こえてくる。
気持ち少しだけ湊の表情が悲しみと苦しみに混濁した表情に変わったのを見てとった。
サトリの法の力が南の脳裏から相手の心の支配を読み取っていく。
泣いている…
彼女は、僅かにその誰にも気付いてもらえない心の奥底で小さな悲しみの雫をこぼしていたのであった。
『ころして…ワタし、を…いやだ…
第四の、せ、戦士になんかなりたく、ない…
ワタシは、ただ、行方が、わからなくなった、パパと、ママをさがしていた、だけなのに…あああぁぁっ』

サトリの法によって辿った思考のシナプスがぶちっと音をたてて途切れる。
次の瞬間、湊は再び妖しい笑みを浮かべ南を捉まえた手に力を込めた。
『バチ…ッ!』
湊が右手にその力を込めると、放たれた力の加重により古びた焼却炉に再び紅蓮の炎が燃え盛った。
『死ね。』


『ガシャッ!』
湊の不可視な力に身体を抵抗することかなわず、南は燃え盛る炉の中へと身を落下させた。
『あぁぁぁぁっ!
うあああぁぁぁっ!』

身体を、皮膚を炎が浸食する。
だが、肉体の危機を察知した南の身体が何かに共鳴するように打ち震え、磁場を揺るがす。
『…はぁぁぁぁっ!』

魔術の呪力を受けた南の肉体は、冷たく彩るオーロラにも似た青い霧によって包まれた。
その霧はやがて一粒の冷たい結晶となって炉の扉を弾くようにこじあけた。
『ば、ばかな…あの炎を一瞬で…!』
南はその震える霧をまとった肉体から、ふっと吐息を湊に吹き掛ける。
瞬時に、湊は脳の中枢を麻痺させられその場に昏倒した。
『…ごめんなさい。湊。
あいつは、近くに…まだ‥』




南の瞳が標的を圧殺するように捕捉する。
そこに、確かに標的はいた。
『馬鹿な…湊ほどの能力をもった人間が、やられるとは、
やはりこの女を始末するには、WALD LITTERをもってしても至難だということなのか…』

南は念次を追い詰める。そこは街外れの路地裏であった。念次が何者かに携帯電話で連絡を取り合っていた矢先、南にその行方を感知されたのであった。
『あなたたちの目的は何?なぜ、私の姉さんの存在を知っているの?』

『それを知ってどうする?』
『そして、季樹君も、湊も…
答えなさい。季樹君に貴方は何を渡したの?
貴方が渡したあの百合の聖書は、何なの?』

念次は高らかに笑う。
『ヒトが願うものを叶える儀式だよ。
力、世界、生命、それらの全てをね。
全ては虚栄の神の御名の元に。』
念次の言葉には健全な精神がもはや感じられない。
少なくとも一クラスの一生徒としていた市川念次のありのままの像とはなにもかもがかけ離れていた。
『だが、あの鈴木が意識を取り戻したまま学院に戻ってきたということは、いよいよ我々の計画もあかるみにされてきていたということか…
残念だったね。月島 南。あの聖書は力なき者に未知なる力を覚醒させるための道具。
だが、悲しきかな新しい世界に選ばれなかった者にはすべからく苦痛と死が待っている。
あの肌の変色からして、あと一日もつかなぁ…くっくっく…ぐ!』
突然、念次が何かに身体を締め付けられるように苦しみ始めた。
『ぐ、ぎゃぁぁぁぁぁぁ』『な、何…!?』
南はまわりを物色するが人らしき気配はない。だが、湊のそれとは数十倍ほどの桁違いの念動力のようなものが念次の肉体を締め付けていた。
『仕留めそこなったか。
場末の役者が何を演じるというのだ?
…見苦しい…ゴミめ。』
次の瞬間、何かがぶちっと弾けるように念次の肉体は大蛇に締めあげられたようにズダズダにその骸を曝した。
‥断末魔の悲鳴さえもなかった、悲しい最期であった。
『季樹君‥季樹…!私…』だが、考え込むのを南は止めた。
その足ですぐさまただひとつの目的の場所に向かった。


『映りだす世界は全てくらい、くらい、灰色。仕方ないことなんだ。‥これは、君からの想いから逃げ出した僕への哀れなる罰なのだから。』