呪殺

紗映は放課後、美香の待機する職員室に向かい、場所を移し昨日の会話の補足を話し合っている途中であった。
『仮初めの術法‥でも、どうして?
それほどまでに強大な力が必要なら、vanityが直接駆り出して来ればいいはずじゃ‥
こんな手法はあまりにもまわりくどいんじゃないのかしら‥』
紗映は一瞬額に指をそっと充て、自らの主観を述べる。
『vanityには、私たちには知られてはいけない何かがあるのかもしれないですね。素性、過去、因果‥
だから、vanityに忠実なる下僕、WALD LITTERが全てを仕切り、司っている。
だけれども私は仮初めの術法の真実は、彼等残り4人も知っている者はいないのではないかと思います。
従属し、しかし主からもっとも遠い存在。
彼等はvanityが秘める力により、普通の人間の数倍の力を持っています。
その比は、伊達や神永のそれとは比較するべくもありません。』
『私たちにも、この街を、あの誤った道から正しくあるべき姿に戻す為の力を持った能力者が必要なんです。

私は、彼女達に私が知るべき真実を語り、協力してもらおうと考えています。』
『南、達のこと‥?』
『はい。他の生徒達とは違い、月島 南さんが持つそれは格段に次元の違うものです。
そしておそらくは彼女は自分に秘められた力の全てにはまだ目覚めていない。
それを虚栄の塔が知ったら、敵は彼女を殺しにかかるか、ありとあらゆる術で洗脳を計りにくるかもしれません。

彼女が身に秘めた力‥あれは、私では到底叶いません。
だけど、もしかしたら彼女は私の気配に気付いているかもしれない。』
そして、紗映はさらに言葉を続ける。
『そして、虚栄の塔が嗅ぎつけるべき標的がもう一人、私の身近にいます。
彼女を助けるべく私は一度、単独で行動に移しましたが‥』
紗映の表情が軽く歪む。
『もしかしたら、敵は先手を、‥いや、それは信じたくないことなんですが‥』
紗映はきりのいい所で話を区切り、校舎を後にした。

次の日、校舎でちょっとしたハプニングを含めた事件が起こった。
早朝の学園内の清掃業者が校庭の花壇に足を踏み入れた矢先、花壇の花が何者かにメチャクチャに粉砕されていたのであった。

当の学長はこれを不特定他者による悪戯なものとし、一部職員に報告するに止めていた。しかし、紗映はただ一人、花壇をその場でみつめ、何か怪しいものを感じ取っていた。

朝礼の始まる時間前、他生徒から花壇の一件を聞いた唯が急いで花壇へと駆け付ける。
するとそこには静止した状態で立ったままの紗映の姿があった。
紗映はその顔からは何も読み取れないほどの意志のない表情で唯の瞳と目を合わせる。
『仕掛けてきた‥っ!』
『えっ‥?』
唯が戸惑いを隠せない瞳で紗映を見つめる。
『‥この花壇に、水をやっていたのは‥』