隻眼の少女・1

『もう…わかるって…?それは、一体‥』
闇夜の、人影のいない漆黒に等しい夜の静寂に二人の微かな声色が脈動する。
理解に苦しむ表情を見せる困惑の美香をたしなむように、紗映は軽くうつむいて話の続きを綴り始める。

『いつか、誰かに本当の真実を打ち明けたかった‥
孤独を愛し、孤独に愛されたたったひとりの私に。
でも、先生、貴方ならきっと私の心を理解してくれるかもしれない‥
そう、信じたいから‥』

紗映もまた、何かに心を縛りつけられたまま、生かされてきたというのだろうか。
夜の冷たい風が無情に荒ぶように吹き荒れる。
二人を見守るように夜空の月が光をそっと注いでいた。
『感じる‥この近くに、気配…』
美香が一瞬紗映の名前を叫ぶ。だが次の瞬間、紗映はまるでその月の光に溶け込むようにその姿を消していた。
『紗映っ!』


おそらくは俊発的にその場から移動したのであろう。紗映は、先読みするように気配の行き着く場所に踏みとどまっていた。
『馬鹿な‥何故‥』
走り込んできた一人の若い声をした男が闇夜の中、影に勢い余ってぶつかる。否、その影は敵の気配を察知して立ちふさがっていた紗映そのものであった。
『私の目の黒いうちは、先生を殺させたりなんかしないわ。
‥イズミの、私の、敵をとるまでは‥!』
『何故だ‥既に能力を授かりしその身で尚、心まで冒されていないとでもいうのか‥信じがたい‥』
『心?
そんなものはあなた達がとっくに持ち去ってしまったものよ。』
紗映がすうっと息を吸い込む。風が外界から紗映の体内に侵入した次の瞬間、紗映の瞳からまがまがしいほどの妖気が放出された。
一瞬でその妖気が夜の闇に緑色の怪しい輝きを放ち、炸裂する。だが、既に男の存在は霧のように霧散した後であった。
『残留した思念‥、逃げられた‥
それとも、能力を使ったのはおとり‥?』


紗映は力をそっと体内にしまい込み、平静の状態へと戻した。
『私が動いたら、彼らも絶対に動きはじめるはず‥
その時にまで、きっと‥』
その数分後、紗映の気配を辿って付いてきた美香と紗映は再び合流した。
それと程よく同じタイミングで晋子からの連絡が入る。美香は紗映を連れて晋子の館へと向かった。