晋子、真実へ‥

『占い…なぜ、宮内君がそんなことを?』
宮内の行動が何を示していたのかは知る由もない。由香里との関係の先を何か別の指標によって見いだそうとしていたのか‥
『いや、そんなもんじゃなかったってさ。隣人の親父さんが言うからにはどこそこの借金の取り立てじゃないんかっていうぐらい、扉をドンドン叩いていたらしいしな‥
まぁ何か余程のことだったんじゃ、ないかねってね‥で、唯ちゃん。その宮内君とやらは学校では特に問題なく接していたのかい?
何か、思い詰めた様子はなかったかね?』
晋子の表情がくぐもる。唯も少し緊張を隠せない面持ちであった。
『それは、特には‥』
『なら、いいんだけど‥

一瞬の間を置いて晋子が言葉を続ける。
『私には、美香が不憫でならないんだよ‥
一連のこの学園内で起こっている、生徒達の変死‥まさか、これらの一連はすべて美香を、‥美香を追い込む為の筋書きのようにも思えて…
美香が火中の中にいる以上、南だって、唯ちゃんだって、決して安全だとはいいきれないわけだからね‥』『晋子おばさん‥』
『ともかく、何か不振な事が起こったら、私に相談しておくれ。
この間違った流れの循環を、断ち切るためにもね‥』


唯はしばしの間晋子の事情を伺い、その場を去った。唯が去った後で晋子は激しく自責にも似た念にかられる。

一体、あとどれ以上の犠牲を孕んだら、我々は平和無事たる日常に帰依することができるのだろうか‥と。
『叔母さん。』
『‥美香か?いいよ。もう店は早めに今日は畳んだから。
どこか女二人飲みにでもでかけるかい?』
晋子なりの気遣いであろう。まったくこの叔母にはかなわない。
願わくば思った。自分の記憶を辿る母親が彼女のような人であったと信じたい‥そう信じることで悲しみに移ろう心を惑わせられると言うのなら‥
『美香、何かわかったのかい?
片桐のやつが言っていた記事の件‥それは‥』
『これです。
もっとも、ここじゃ何ですから場所を移しましょう。万が一にでも、この会話を誰かに聞かれたくないので。』
美香と晋子は新宿の有楽街へと足を運んだ。
晋子が昔から行きつけらしい古びた様子の漂う場末のバーの一席で二人は語る。
『伊達が、あの男がこの時期になって青華学院に再編されたことは、何らかの意図的な要素が噛み行っていたというのかい‥?』
『おそらくはそうです。
学長も私の辞任については何も追及しませんでした。そして、伊達が、彼が生徒の一人須藤由香里を唆し、虚栄の塔の意図に叶う力を狩る術を行うも失敗。
彼は不慮の死をもって、片付けられました。
‥けど、話はそこで終わりません。
数ヵ月前の青年達を徒党していた神永、それを操っていた上原。
そして、伊達一真
伊達が虚栄の塔に入信する最大の動機となったであろう、不慮の事故死を遂げた一人の少女。
全ては彼女に、つながるのではないかと‥』
『バカな‥
死んでいる人間の過去をえぐり返して、何の為に‥復讐‥怨恨、それとも‥』

『おそらくは、彼自身も駒の一つにすぎなかった‥けれども、今ようやく彼の死が、私たちに戦う相手をきっちりと見定めさせてくれたような気がします。』

『その少女の正体‥わからずじまいか。さすがに11年前の話じゃなんともなるまいな。今の生徒を受け持つ教師にも知るものはいまい。』
『学長を除いて私を含めて3年以上任期を勤めたものがいません、おそらくは‥』
『伊達が死んだ後もこの街から依然、不穏な空気は消えようとせぬ。
‥まるで我々が一つの巨大なる虚像の中で踊らされているみたいだね‥』
『残るWALD LITTER、虚栄の塔を護る守護者は4人‥そのうち、彼女のことは、私が‥かならず‥』
『美香‥不粋な考えはやめるんだよ。』
『わかってます。
今日はごちそうさまでした。』
その夜、美香は不思議な夢を見た。
誰かに、懐かしい声で自分の名前を呼ばれた。
美香は一瞬だけ背後を振り替える。
だが、悲しくすさぶ湿りついた空気に紛れ声の正体は霧のようにかき消され、その行方を追う術も無かった。