母を想う

〜おやすみなさい、おやすみなさい。いいこたち。
あなたにとってのあしたが、どうかしあわせでいられますように。
あなたにとってのあしたが、どうかいつもとかわらぬあさをむかえられますように〜

『これは…何?』
『結界の一種よ。それは滅多な力が介入しないかぎり崩れることはない。とりあえず、結界が崩れるような事がおこれば私がすぐにかけつけるから。
『…結界?』』
『まぁ厳密には、召喚…ね。』
紗映は軽くつぶやいた。そしてそのまま1人病院の入り口へ戻ろうとする。

『病室…もどるの、なら、私も…』
『いや、私ひとりでだいじょうぶ。貴方の姉さんの容体も見ておくわ。早夜、今日は事務所に戻ったほうがいいかもしれないね。』
そう言い残して紗映はいったん早夜の元を離れた。

『………』
わかっているのか。
『君は私の手の内の中だということを忘れるな。
まだあがくのか?無駄なことを。イズミの二の舞になることはわかっている。』
ざれ事だ。私はもう逃げることなどできはしないというのに。
紗映は軽く独り言をつぶやきながら、病室までの渡り廊下を歩いていた。
しばしの静寂とともに、イズミの病室に辿り着く。
『…イズミ。』
何やら病室の中の様子がおかしい。明らかに人の気配はするのだが何やら異様な熱さとも冷たさとも相容れぬ空気がその部屋を支配していた。
『…イズミ、目覚めてるの?イズミ…!』
だが、部屋をあけた瞬間、イズミの姿はみえなかった。かわりに見えたのは、あきらかに人間の目つきではない何者からの殺意を込めた瞳。
『あなたは…』
『奴をおびきよせてまんまと能力者を2人まとめて一網打尽にするはずだったのに、まさかここで早くも察知されるとはな。
だが、おまえが一人しゃしゃりでてきたところで何も変わりはしない。 おとなしく、“鍵”の正体を教えるがいい、さもなくば…』『くっ…』
紗映の眼前に白衣の男の姿が映る。その正体はイズミ、奈魅留を担当していた医師、瀬名であった。

『…この場は、ひかせてもらう。』
『‥待てッ!!』
紗映が能力を解放する。しかし、すでに病室はもぬけの殻と化した後であった。
…to be continued.