雨に奏でる時

『最近、私のことばかりかまってくれるのね。どうして?』
美奈は背中を向けたまま渓に語り掛ける。
まるで何かが、そう、違う。
今の今まではあくまで自分に干渉しようとしてきたのは美奈なのだ。なのに、今、この自分の目の前にいる美奈は、何かを試そうとしているのかのような素振りで渓を翻弄していた。
『…美奈。』
『いいよ、真弓。渓とふたりで話がしたいから。』
真弓は美奈の一人暮らしのマンションの同じ階に住んでいる美奈の女友達であった。偶然近場で美奈と会ったことでうちとけ、美奈と会話するようになった。
『たとえば、誰かと、たくさんの人といっしょにいても、同じなんだよ。   ひとりぼっちと。…だから、人はひとりぼっちなの。そして、私も…?』
あの傘の理由が知りたい。だけど、今はそれはどうでもいいことで…

『あなたはきづいているの、ただ、見えないふりをしているだけ。』



『…心が見えるのって、哀しいね。』
同じ、孤独だったから? わからない。わからない。でも、なぜか渓の心がもどかしいほどに美奈を求め、必要としていることに気付いた。


渓は、その夜自宅に戻った。そして、玄関で渓は液晶をばらばらに砕かれた槙絵の携帯をみつける。
『‥‥っっっ!』
恐れていた現実の崩壊。 逃避の代償。渓は、ただふるえていた。

『うぅ…』なぜだろう。 心は不思議と冷静だ。取り乱せない。警察に電話してみたが何もしゃべれることがなく、そもそも無口な状態でひたすらこわばってしまっていたため、相手にもされなかった。
そんな中、渓の携帯に一通の電話が。
『‥この声を覚えているか。』 沈黙が訪れる。
『神永…か。』
『同じ罪に手を染めておきながらおまえはなぜ幸せを手に入れようとする』
『おまえは、あの時の事故で死んだはずだ…』
『シネナインダヨ
ナゼナラ オマエガイキテイルカラダヨ』
『うわぁぁぁぁぁあっ!!』 やつは、死神だ。自分に恐怖と死をもたらすためだけに俺の元に蘇ってきた。 なぜ、なぜ…
『俺は…俺は…』
気付けば、夜の公園に渓はたっていた。いてもたってもいられずに…
『…大作?』公園のほとりに大作の後ろ姿がみえた。しかし、それは


『ガッ…!』『わぁぁっ!』
突然、何かみえない衝撃波のようなものに渓は体を弾かれ、宙を舞った。
神永が、現われた。また、俺の前に。『うゎぁぁっ…』
公園の入り口まで渓は這うように進んだ。しかし、謎の影が夜の闇に姿をくらまし確実に渓を追い詰めようとしていた。
『ナイフ…?ナイフの金属音』
『ヒュッ…』
逃げられない…!    しかし、渓にその刄がかざされる瞬間、暗むような光の壁が激しい炸裂音とともに刄をかきけした。
『…み、美奈…!』
『ついに姿を現したわね。能力者。貴方は…』



『聖母の加護を得た者か。その力では、俺に致命傷をあたえることはできまいよ』『くっ…』
後ずさる美奈と渓。せめて、あと1人、能力者がいれば…
…to be continued